2010年に日本SGIのAltix ICE 一式(1920ノード)を導入した東京大学物性研究所(以下 東大物性研)物質設計評価施設 富田裕介氏 渡辺宙志氏に日本SGIの製品および技術支援への評価を詳しく聞いた。
- 東大物性研について
- 導入効果
- 東大物性研スーパーコンピューターシステム(通称:システムB)の概要
- 東大物性研の考えるスーパーコンピューター環境のあるべき姿
- あるべき姿を実現するために今回、定めた要件
- 日本SGIが選ばれた理由
- 日本SGIへの評価
- 今後の展望
東大物性研 ~ 全国の研究者のための共同利用研究所
― 東大物性研について教えてください。
東大物性研は物性物理の研究者のための共同利用研究所です。名称に「東京大学」を含むため、東大の関係者しか使えない施設であると誤解されがちですが、実際には北海道から沖縄まで物性物理の研究者なら誰でもこの施設を使うことができます(※)。東大物性研が共同利用研究所として提供しているのは、主に実験のための設備、そして物性物理シミュレーションのための計算資源であるスーパーコンピューターです。現在は約600名の研究者がこの計算資源を活用して物性物理の研究を推進しています。
日本SGIのAltix ICEはこの計算資源を供給するためのスーパーコンピューターとして、2010年7月より稼働開始しています。
※ 使用者は、原則として公立機関の研究者に限っています。
導入効果 ~ 前世代スーパーコンピューターのときに比べ利用者は約2倍に
― 現在の導入効果はいかがですか。
東大物性研のスーパーコンピューターは研究者のみなさんに 積極的に使ってもらうためのものです。その観点から導入効果を述べるならば、 まず5年前の前世代システムにおいては、スーパーコンピューターを使っているのは 約100研究グループでしたが、今回のシステムに切り替えた後に、ほぼ倍の約200研究 グループが活用するようになったことが挙げられます。
また、現在のスーパーコンピューター利用率は約90%です。この利用率90%は、実質的には「利用率100%」であるといえます。スーパーコンピューターを稼働する際には、 研究者が希望する計算資源使用量を元に、管理者側である私たちが、資源の割り当てとスケジューリングを行いますが、その際に完全に隙間なくスケジュールを組むのは無理で、どうしても細かな空きが生じるからです。
特に、スーパーコンピューターを使いたい研究者の「順番待ちの行列」が常時できておりますので、「ほぼ全ての計算資源が常に利用されている状態」が実現できていると言ってよいと思います。
東大物性研スーパーコンピューターシステム(通称:システムB)の概要
~ 1920ノード、180テラフロップス
― Altix ICE導入の概況を教えてください。
東大物性研におけるAltix ICE導入の概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 備考 |
| 導入規模 | 1920ノード | 設置面積は約100メートル平方 |
| 速度 | 国内3位 | LINPACKテストによる |
| タイプ | スカラ型 |
東大物性研が提供する計算資源の中でAltix ICE(スカラ型)が占める割合は、[スカラ型:ベクタ型=30:1]となっており、スカラ型は180テラフロップス、ベクタ型は6.6テラフロップスとなっています。 |
| スーパーコンピューターが使われている研究分野 |
第一原理計算、強相関電子系、量子・古典スピン系、ソフトマテリアル、超伝導物質、マルチフェロイクス、スピントロニクス、燃料電池、触媒、巨大応答 (磁気・電気、光学)、ナノマテリアル、ポリマー、生体分子など |
計算物性物理においては、「設計」「合成」「評価」のサイクルを回すことが 重要です。スーパーコンピューターはこのうち「設計」「評価」で活用されます。
概念図 |
10年前の1995年~2000年の間は全てがベクタ型(スカラ型はゼロ)でしたが、その後2001年~2010年にかけてスカラ型の増強が進み、現在はスカラ型が9割以上を占めるまでになりました。
東大物性研の考えるスーパーコンピューター環境のあるべき姿
― 東大物性研では、スーパーコンピューターのあるべき姿をどのように考えていますか。
まず「東大物性研スーパーコンピュータセンターの役割」は、「日本全国の物性物理学研究者に安定した計算資源を公正に供給すること」です。この役割をさらに詳細に述べると 「安定的な供給 → サーバダウンや頻発する保守によって研究を妨げない」、「公正な供給 → ピアレビューによるプロジェクト審査」、「ニーズに合った供給 → メモリ性能重視のベクタ型システムと総計算性能重視のスカラ型システムのバランス良い配備」となります。
今回のスーパーコンピューター導入においては、次世代スーパーコンピューターにおける超大規模計算の下準備を今からやっておくことも主な目的の一つでした。現在、神戸にて準備がすすめ られている次世代スーパーコンピューター「京」では、100万並列規模の計算が想定されて います。
そこで、東大物性研としては1万並列規模の計算で準備が行えるように、月に一度、計算機資源の三分の二を使うような大規模計算(実用計算およびベンチマーク調査)を実施しています。
あるべき姿を実現するために今回、定めた要件
~ メモリ性能とディスク性能を重視
― この「あるべき姿」を実現するために、今回の入札で求めた要件はどのようなものですか。
スーパーコンピューターですから、大きくは「大量の計算を高速に行えること」が常に基本要件となります。今回、その基本要件の他に定めた詳細要件は次のとおりです。
詳細要件1.CPUが多くあること(総演算性能が高いこと)
詳細要件2.ノード間通信速度が速いこと
詳細要件3.メモリの性能がベクタ型ほどではないにせよ、高性能であること
| 仕様書での記述 |
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- 主記憶容量の実容量は1core当たり2GByte以上、1ソケット当たり8GByte以上、1ノード当たり16GByte以上であること。総主記憶容量は多い方が望ましい。 |
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- メモリ転送速度は十分に大きく、Byte/Flop比で1/3以上であること。ノード内の任意のソケットとメモリの間のデータ通信速度は単方向で4GByte以上であること |
※これは、従来ベクタ型を使っていた研究者に徐々にスカラ型に移行してもらうことを図って求めた仕様です。大雑把には「従来ベクタ型で1時間で済んでいた計算が、スカラ型 で1.5時間で完了する程度の性能」を求めました。その程度の時間差で済むのであれば、研究者の皆さんが、スカラ型を使うようになると期待できます。今回はスカラ型の計算資源 がベクタ型より30倍多くあるわけですから、多少移植の手間がかかったとしても、スカラ型 を使うようにした方が結局は、「より大きな計算を、より短時間で実行できる」ことになります。
詳細要件4.ディスクの読み書き性能が優れていること
| 仕様書での記述 |
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磁気ディスク装置の実容量は総演算性能60TFlopsにつき30TByte以上あること。例えば総演算性能が90TFlopsであれば実容量は45TByte以上あること。実容量は大きいほどよい。計算ノード全体を15等分してできるどの区画であっても、区画内の全メモリのデータを500秒以内でこの磁気ディスク装置に転送できること。この転送能力は磁気ディスク装置を構成する諸元の理論性能値で算出しても構わないが、その際には計算サーバとの接続など実際の構成を十分に考慮すること。この算出された転送能力は算出に用いた根拠とともに提示すること |
※これは「研究者にとってのログイン作業のやりやすさ」を考慮して求めた仕様です。 スーパーコンピューター上で多くのユーザーが計算を始めると、一つのディスクに対するアクセスが集中します。この場合、研究者個人の「ファイル操作」「プログラム改変」などのログイン作業は、「優先度が低い」と見なされ、後回しになります。イメージとしては「ファイル検索コマンドを打ったら、結果が返ってきたのは5分後だった」というような状況です。このような研究者にとって非効率な状況が生じないよう、ディスク読み書きには十分な高速性を求めました。
日本SGIが選ばれた理由
― 日本SGIを選んだ要因は何ですか。
まず日本SGIは「ノード間通信の高速性」において優れていました。その他、1ラックあたりの集積密度(単位体積あたりの演算性能)も優れていました。今回は、スーパーコンピューターを格納する部屋のサイズはあらかじめ決まっていたので、後者の集積密度の高さは特にプラスの要因となりました。
こうして日本SGIの採用を決定。2010年7月より稼働を開始し、半年後の現在にいたります。
日本SGIへの評価 ~ SEの技術支援の手厚さを高く評価
― 実際に半年間、稼働してみての日本SGIへの評価を教えてください。
主な導入効果については冒頭で述べたとおりです。スーパーコンピューターを活用する研究者の数が二倍に増えています。
システム以外の人的な面での評価ポイントとしては「日本SGIのSEは大変よく支援してくれている」という印象を持っています。
先ほども述べたとおり、今回のスーパーコンピューター導入には、「次世代スーパー コンピューターでの100万並列に及ぶ大規模計算への下準備」という意義もあります。この 「大規模計算」の実行は、我々にとっても未知の領域であり、スーパーコンピューターの専門家の支援が不可欠ですが、日本SGIのSEは、常にユーザーサイドに立った手厚く柔軟な技術支援を提供してくれています。
日本SGIとは、前回5年前の導入から引き続いての関わりですが、これまでSE対応において、人が変わった場合でも、サービスレベルが落ちたと感じたことはありません。高い水準の サービスを継続提供していただいている点を高く評価しています。
今後の展望
~ 超大規模計算と日常より少しスケールアップした計算の両立を
― 今後の計画と、日本SGIへの期待についてお聞かせください。
東大物性研のスーパーコンピューター環境は、今後、「次世代100万並列の大規模計算」と「研究室のパソコン環境でのちょっとした計算を少しスケールアップした小規模計算」の両方 を安定的かつ公正に供給できるようでありたいと考えています。大きな計算と、日常研究の ためのちょっとした計算の両方をバランス良く供給し、研究者にとって快適かつ効率的な環境を備えることで、日本の物性物理の発展に寄与したいと考えているのです。
日本SGIには、優れたハードウエア技術と柔軟な技術支援の両面を、今後とも継続提供していただくことにより、東大物性研の取り組みを支援していただくことを希望します。今後ともよろしくお願いします。
国立大学法人 東京大学物性研究所
〒277-8581 千葉県柏市柏の葉5丁目1番5号
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/index.html
物性研究所は「物性物理学」の研究推進のため、全国共同利用研究所として設立され、
現在は先端的実験技術を開発する新たな役割を期待されており、従来の枠をこえた新しい学問領域の推進を目指している。

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