宇宙の謎を解く最先端の宇宙線研究を支えるシステムを
日本SGIの最新技術で構築

小柴昌俊東大特別栄誉教授のノーベル賞受賞を記憶している人は多いだろう。これにより、「ニュートリノ」や教授の建設した「カミオカンデ」がちょっとした流行語となった。ニュートリノとは宇宙線の1つであり、東京大学宇宙線研究所(以下、宇宙線研究所)の重要な研究対象だ。カミオカンデの後継装置であるスーパーカミオカンデも宇宙線研究所の施設の1つである。宇宙線研究所はニュートリノも含め、各種宇宙線の研究を専門に行っている世界で唯一の研究機関なのである。そして、日本SGIは1999年以来、宇宙線研究用の分析システムを一貫して構築してきた。そのシステムも2008年1月にはSGI Altix XE210シリーズを核に、2度目の再構築。システム再構築の背景や求められる要件、さらに同研究所の研究内容まで、高エネルギー宇宙線研究部門 助教 博士(理学)大西 宗博 氏に伺った。
導入の背景
最先端の宇宙線研究は大容量のデータが発生
「宇宙線」をご存知だろうか。宇宙空間を飛び交っている放射線の1つであり、極めてミクロな粒子のことである。地球にも宇宙線は常に降り注ぎ、大気中に飛び込み、地表に達している。宇宙線は大気に突入すると、窒素や酸素などの原子核と核反応を起こし、膨大な数の、よりエネルギーの低い粒子に変わり、シャワー状になって地表へ向かう。
地球大気に飛び込む前の宇宙線を「一次宇宙線」とよび、大気に飛び込んで変化した新たな宇宙線を「二次宇宙線」とよんでいる。「この二次宇宙線や、それの出す光を地表や地下で検出し、一次宇宙線のエネルギーや飛んで来た方向を調べるのが私達のミッションです」と、大西氏は語る。
宇宙線は10の10乗~20乗eV(電子ボルト)ほどのエネルギーを持っている。10の12乗eV領域のエネルギーのガンマ線(宇宙線の一種)は、オーストラリアで観測している。「宇宙線は大気中でチェレンコフ光という微かな光を発します。これを反射鏡で集光し、望遠鏡の主焦点に設置したカメラで捉えます。人工光が少なく晴天率の高いオーストラリアに装置を建設しています」
10の12乗~17乗eV領域のエネルギーの宇宙線は、チベットで観測している。「二次宇宙線が通過すると光を発する特殊な装置を数万㎡に千台ほど並べ、その光を光電子増倍管で検出し、時間と発光量とをデータとして収集しています」
チベットグループよりも高エネルギーの宇宙線はかつて山梨県で観測されていた。宇宙線は高エネルギーになるほど、頻度が減少する。
このため、広域100キロ㎡に宇宙線を捉える特殊装置を散在させ観測していたが、その後継のさらに大掛かりな装置を米国ユタ州に建設して観測を続けている。
また、スーパーカミオカンデは、岐阜県神岡町の神岡鉱山の地下1000mに5万トンの水タンクを設置して、ニュートリノなどを検出している。
導入の経緯
膨大なデータ量への計算能力の強化
1個の一次宇宙線は、大気内で核反応をねずみ算的に繰り返して数を増し、最終的には1万個から1億個以上もの二次宇宙線に変化する。宇宙線研究所ではこの散らばった中から可能な限り多くの二次宇宙線を検出し、大本となる一次宇宙線のエネルギー量と方向を割り出さなければならない。
「その計算方法がモンテカルロ法シミュレーションです。得られた二次宇宙線のデータをコンピュータ上で再現するために、途方もない数のシミュレーションを繰り返し、それを元に一次宇宙線のエネルギーと方向を推定するのです」と、大西氏は解説する。モンテカルロ法とは、乱数を用いたシミュレーションを繰り返して近似解を求める計算手法である。対象となるサンプルの数が少ないと、それだけシミュレーションの回数が増え、計算量が膨れあがっていく。地球上で検出できる二次宇宙線の数は微量に過ぎないため、膨大なデータ量の計算能力が求められていた。
このため宇宙線研究所では、1999年1月から分析用のシステムを構築している。最初のシステムは
RISC プロセッサー搭載のUNIXサーバSGIR Origin 2000(16CPU 構成)と2TB のディスク、100TB
のテープ装置で計算サーバ60台により構成されていた。「当時としては最先端のスペックです。ただ、データのほとんどがテープに収められていて、計算の度にディスクに戻さなければなりません。これが不便でした」
選定理由
長年構築してきた実績と優れた技術力の日本SGIを評価
だが、極めてハイエンドなシステムも複数のグループが同時に使用するには限界があった。低いエネルギーレベルの宇宙線の分析でも1時間程度、高エネルギーのものになると数日から数週間かかってしまう。そこで大西氏は新システムの構想を開始する。「やはりポイントは計算能力とディスク容量です。それと共に、それらの性能を十分発揮させるネットワーク及びシステム構成も重要な条件でした。」
そして、この要件をクリアしたのが日本SGIからの提案であった。
今回のシステムの中核となる計算サーバは14ノード構成の SGIRAltixR XE 210シリーズが10台。各ノードはクアッドコアのインテルR XeonR プロセッサーを2基搭載しており、合計で1120コア構成の大規模なクラスタサーバとなっている。それらがファイルサーバ経由で500TBのストレージに接続されている。日本SGIはネットワークやミドルウェアも含め、IT インフラすべてを構築した。「要件をクリアしていること、そしてコスト、さらに性能評価を行い、日本SGIが最高ポイントになりました」と、大西氏は採用の理由を語る。日本SGIは1999年のシステムから継続してシステム構築を担当しており、その実績と信頼性も高く評価されている。

導入効果
未知の世界を解明する最新システム
新システムの計算サーバは、コア数が増大しただけではなく1コア当たりの処理能力も高まっている。「これまで1週間かかっていたシミュレーションが1日で完了できるようになりました。今日入れた計算ジョブの結果が、今日にはもう返ってくるのです。これで不可能だった10の20乗eV 宇宙線のシミュレーションもできるようになりました。多くの分析ができると思うとワクワクします」と大西氏は目を輝かせる。
また、テープをなくして、ディスクだけの構成のストレージ・システムとなった。「計算効率が飛躍的に向上しました。テープとのやり取りに煩わされることがありません」と大西氏は語る。大容量のデータを日々保存するため、すでにディスク容量が気になるので、2010年には1.25PBに拡張も予定されている。
新システムは卓越した大規模なクラスタサーバによる計算能力と大容量の高速ストレージ・システムにより宇宙線研究所の期待に応えている。「日本SGIには感謝しています。日本SGIには、このような最先端の研究を支える高性能なシステムを構築する高い技術力があります」と、大西氏は日本SGIを評価している。
宇宙線は「宇宙からのメッセージ」であるといわれている。宇宙線を研究することで、宇宙の成り立ちや仕組みなど、闇に包まれていた多くのことがわかってくるかもしれない。そのような最先端の研究を日本SGIの最新技術が支援している。
※本事例の内容は2008年11月現在のものであり、変更されている可能性もありますのでご了承ください。
東京大学宇宙線研究所
〒277-8582 千葉県柏市柏の葉5-1-5(東京大学柏キャンパス)
http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/
宇宙から飛来する宇宙線の観測と研究をさまざまな角度から行っている全国共同利用研究所。
宇宙ニュートリノ、高エネルギー宇宙線、宇宙基礎物理の各研究部門があり、研究スタッフはどれかの研究部門に所属して研究を行っている。

本記事の内容および使用写真は、関係者、所有者の承認を得て編集、公開をしています。 日本SGI 株式会社Webサイトのご利用条件をご覧下さい。

